2007年8月20日月曜日

3年夏学期講義「電気機器学基礎」期末試験の結果と講評

得点分布と最終成績評価との対応


半年にわたる聴講と、試験の際のアンケート、まじめにやってくれてありがとうございました。

書いていただいた内容を見ると、やはり今年度の講義は、時間配分があまりうまくいっていなくて分かりにくいところがあったのだと反省をいたしました。今年度は、シラバスに示しているように、多相交流が回転磁界(進行磁界)を作るという一番の基礎原理から入って、交流機の一般論から同期機のベクトル線図を説き起こすという、理論的に最も正統的な進め方を志向しましたが、現場的感覚、実験における直感的理解を重視するならば、直流機の様々な外部結線方式の相違が、トルク-速度などの定常特性にどのように関係するのかということから説く方が、分かりやすかったようです。

多くの傾聴すべき建設的批判をいただいた一方、明らかに学ぶ者の態度として誤っていると感じるような「横着な」要求もありました。

たとえば、
「仁田本は買っていないので参照箇所を示されても役に立たない、本を買わなくてもすべて分かる良いな講義をしてくれ」との要求がありました。

仁田先生の参考書は、推奨参考書であるので必ずしも買う必要はありませんが、自分で学びやすい本を用いて勉強しなさいといって洋書を含むいくつかの技術文献を講義の初回およびweb上で紹介したはずです。それらを本屋で探して何冊か買ったり、図書室で紐解いてみる手間を惜しんだのだとすれば、それは学ぶ者としての基本的態度に問題ありということになります。

1科目に対して数冊の参考書を見ながら、自分の理解しやすいようにノートにまとめる過程で初めて生きた知識が身につくものだと思いますし、高々数千円で買える参考書を何冊か自分のものとすることは、一生の役に立であろう専門分野の基礎知識や基本的考え方を身につけるためだと考えれば、非常にコストパフォーマンスの良い投資であるはずです。さらに、必ずしも最新の本はないとしても、図書室には高い評価を受けている多くの良書があり、電気機器のような伝統的科目ではそれら(多少古めの?)本も十分有用な知識を与えてくれます。

自発的に参考文献を紐解いて積極的に知識を吸収しようという最低限の努力を怠たる人は、むしろ学びの場を去るべきでしょう。

それと、講義で変圧器を扱っていないという批判がありましたが、初回の講義で述べたとおり、それは2年生4学期のエネルギー工学の講義で扱う範囲であって、この3年生の講義および実験における電気機器関係のテーマは、その基礎的な知識を駒場の4学期の段階で身につけているという前提で組み立てられているのです。

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 期末試験の概要
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[1] 同期機
(1) 同期機(円筒機)の定常状態における等価回路を示し、(発電機として)その定数を定めるための基本的測定法を説明せよ。
これは基本中の基本なので概ねできている人が多かったのですが、何名か、誘導機の等価回路を書いている人がいるのが目立ちました。また、発電機としての試験ということは、軸を外部の機械入力で回しながら、開放電圧や短絡電流の測定をするということです。

(2) 同期機の界磁電流を変化させることで何ができるかを説明せよ。
界磁電流を変化させると内部起電力の大きさを直接変化させることができ、それが回路の中では力率を変化させるという本質に触れている人には高い得点を与えました。ベクトル線図を用いて定量的な議論をした人にはさらに良い得点を与えました。界磁電流が直流だということを分かっていない人が数名見られたのは残念です。
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[2] 誘導電動機
三相誘導電動機の1相あたりの等価回路を示す。
(1) 図の回路の定数を定めるための基本的な測定法を、(実験室での経験を思い出しながら)説明せよ。
これは実験をまじめにやった人ならば満点に近い得点を得られるはずだと思いましたが、等価回路が似ているということもあって、変圧器の試験法について述べている人が何名かいたのが残念です。

(2) 上のトルクの式に基づき、駆動電源の電圧、周波数を一定とし、すべりが からまで変化する場合の、典型的なすべり---トルク曲線の概形を示せ。すべりの大きさでこの機械の動作状態を分類し、各々の状態における動作、エネルギーの流れに関して説明せよ。
これは誘導機の定常的な動作を直感的なレベルできちんと理解しているかどうかを試す問題でした。持ち込んだ紙に描かれた図を、理解することなく丸写ししたのか、きちんと自分自身の言葉で説明できているかに、大きく差があり、理解しているかどうか個人差が顕著に分かりました。

(3) 上のトルクの式に基づき、二次抵抗が変化した場合の、すべり---トルク曲線の比例推移特性ついて説明せよ。そして、その誘導機の始動方法との関係を論じてみよ。(ヒント: 始動に関しては、かご形と二次巻線形に分けて論じる方が解答しやすいと思われる。)

二次抵抗とトルク--速度特性の基本的関係を理解しているかどうかで勝負がわかれましたが、講義でも強調したとおり比例推移特性は誘導機の定常特性の基本中の基本とも言うべき重要な概念ですので、ここできちんとした答案が書けなかった人はもう一度参考書を見直してでも、この言葉は押さえておいてください。二次巻線形で始動抵抗を入れて、始動トルクを大きく取る一方、始動時の電流を抑えるということについては、実験での記憶もあってよくかけた人が多かったのですが、かご型ではそのような操作ができないため、深みぞ形や二重みぞ形で表皮効果を応用して、始動時の二次抵抗を大きくするという伝統的方法は、講義で時間をかけて説明したにも関わらず、理解できている人が少なかったことが残念です。
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[3] 直流機
4kW 100Vの定格を持つ直流機がある。この電機子抵抗は とする。回転数1500rpm一定の速度で外部から回転させたときの他励発電機としての電機子巻線の無負荷端子電圧 が、界磁電流の関数として図のように計測されている。(以下の(1)(2)では、グラフを描く根拠とした回路図や式も併記せよ。)

(1) この直流機を他励の発電機として用いる。同期モータを駆動源として1500rpmで回転させたとき、 界磁電流と設定した場合における電機子電流と電圧との関係を3本のグラフに示せ。
(2) この直流機を分巻電動機として用いる。電機子巻線をの一定電圧源に接続したとき、界磁電流をと3通りに変化させた場合の回転数とトルクとの関係を3本のグラフとして示せ。
(3) 直巻直流機の速度--トルク特性を考え、上記の分巻電動機と比較し、その特徴について自由に論じよ。

これは具体的な特性の式や曲線に関しての記憶がなくても、基本的な結線を理解し、逆起電力の速度特性とオームの法則を理解していればその場で簡単に計算できると思ったのですが、極めて正答率の低い結果になってしまいました。直流機の基本特性の解説にあまり講義の時間を咲かなかったことは失敗であったと反省させられる結果になりました。詳しい数値があっているかどうかは別として、少なくとも(1)については、負荷電流をとると共に内部抵抗(電機子抵抗分)だけ微妙に端子電圧が下がっていくという、電源としての常識的な特性曲線になるはずだというくらいのエンジニアリングセンスが働くようであって欲しいと望みます。


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[4] パワーエレクトロニクスの基礎

(1) パワーエレクトロニクスにおける半導体素子の使い方の特徴を、信号処理用のアナログ増幅器などとの比較の中で論じよ。
ここは、アナログアンプのように素子内での損失を許容しながら中開きの状態で使うのか、損失を理想的にはゼロに近づけるためにオンオフのみのスイッチとして半導体素子を使うのかというパワエレの基本思想を問うてみた問題でした。講義に出席していた人はきちんとできたのではないかと思います。

(2) 単相用の全波整流器を、ダイオード4つを用いて構成する。その回路図を示し、基本的動作を説明せよ。

これは、駒場での物理実験や、前期実験の範囲でも実際に設計をし測定をした基本的回路なので全員ができるはずと思いましたが意外に正答率が低くて驚きました。正解がかけなかったという思いのある人はきちんと復習して何も見なくても回路図くらいはかけるようにしておく必要があるでしょう。本来は、パワーエレクトロニクスがスイッチング素子と、エネルギー蓄積デバイスの組み合わせで初めて機能するという基本を押さえて、平滑回路も含めて議論をして欲しかったのですが、そのような記述ができた人は非常に少なかったので、平滑回路にかんする記述がない答案でも、採点を甘くしました。

(3) (2)のダイオード4つをサイリスタに置きかえると、講義中に説明したように、出力電圧の制御を行うことが可能となる。その動作を説明し、これを例に「点弧角を用いた電圧制御」の原理と問題点を述べよ。

これは、基本的なスイッチング素子であるサイリスタの限定的な機能と、点弧角制御は、結局力率を悪化させながら直流側の出力電圧を制御しているという点を関係付けて述べて欲しかったのですが、その両者に言及した答案は1割くらいでした。

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今回の期末テストは、工業高校の電気機械の教科書の演習問題程度の難易度となるよう努めて問題を易しくした上、自分で書いたメモ1枚の持込を可としました。その結 果、このページの最上部の図にあるとおり、かなり高い得点を得た人が出ている一方、結局何も学ばなかったのではないかと思われる人まで幅広く差がついています。

レポート提出状況も加味し図の ような厳正な採点分類を行いました。せっかく受験したのに、可や不可となった成績下位の人は、不本意でしょうが、レポート提出状況も悪いので、残念ながら救済措置の取 りようがありませんでした。必修科目ではないので問題はないでしょう。ここで悔しいと思った人は、その思いをばねに、冬学期から地道に勉強をしてもらえるといいと思います。

半年のつたない講義にお付き合いいただき、熱心に学んでくださった皆さん、ありがとうございました。冬学期は「制御工学第二」「制御CAD演習」で是非お目にかかりましょう。

夏学期の試験成績が事務室から返却された時点で、納得が行かないという人は遠慮なく古関までご連絡ください。答案自体をお見せして評価や内容についての議論をすることが可能です。

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