このページでは、原則として、東京大学大学院工学系研究科電気系工学専攻教授 古関隆章 が大学で行う、講義および演習に関する補足的情報提供をいたします。その講義についての重要連絡の妨げにならない範囲で、時に個人的な情報発信もしたいと思います。
2009年8月16日日曜日
090816 2009年度電気機器学基礎採点結果と講評
期末テストを下記のとおり毎週レポートの延長上の問題設定にし、さらに例年とあまり変わらない問題としました。問題のレベルとしては工業高校卒業生を対象とする電気主任技術者第三種試験の電気機器の国家試験よりはやややさしい程度かと思います。
持込可とした割には期末テストの得点は平均的に予想外に低かったというのが正直な感想です。(一説には、持込可とするから準備が不十分となり得点が低くなるという話もありますが...)
そこで、通常のレポート点の配分を例年よりは大きめの割合で評価すべく設定をし、下記のような総合得点分布及び判定といたしました。
普段のレポートを出さず、一発勝負に賭けても、期末テストでそれなりに得点をすれば勝負できる環境にしましたが、それにも関わらず、毎週のレポートを出さずに単位を取れた人は結果的に皆無でした。やはり学習は通常からの地道な蓄積がものを言うということを実感させられる結果となりました。一方、普段の抗議に参加しながら期末テストを受験しなかっ人が2人いたのは、もったいないことで残念だったと思います。
単位を取得できた人でも、答案の内容を見ると半数以上の人は基本的な物理的理解が不十分のように思います。電気機械エネルギー変換は技術の基本ですので、今後の講義や実験などの場を通じて、さらに理解を深めるよう不断の努力を望みます。
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期末試験各問についてのコメント
[1] 同期機
(1) 同期機(円筒機)の定常状態における等価回路を示し、(発電機として)その定数を定めるための基本的な測定法を説明せよ。
これは大変基本的な問題で全員満点を期待しましたが、同期機と誘導機の区別がついていない人が3割くらいいることに驚きました。
(2) 同期電動機のV特性について説明し、そのような特性が得られる原理をフェーザ図を用いて説明せよ。
持ち込み可であったため、なんとなくそれらしい図を示せた人がほとんどでしたが、フェーザ図との関係で、論理的定量的な議論を展開できた人とそれができなかった人の間で大きな差が出ました。
[2] 誘導電動機
三相誘導電動機の1相あたりの等価回路を想定する。講義で述べたとおり鳳-テブナンの定理を用いて一次側の回路を簡略化する計算技法を経て、一次側相電圧 、同期角周波数 およびすべり の関数として、トルクを導く。簡単のため、ここでは主磁束による鉄損は無視する。
(1) この等価回路定数を定めるための基本的な測定法を、(実験室での経験を思い出しながら)説明せよ。
これは実験で経験したことを素直に記せば半分以上は取れる問題だったはずですが、まったく頓珍漢なこと、計測としてまったく意味をなさない記述を書いた人が2割くらいいました。また、電機子、界磁など、誘導機とは無関係のことを書いた人も2-3名いました。思い当たる人は深刻に反省をする必要があります。
(2) 誘導機のトルクとすべり関係式に基づき、駆動電源の電圧、 周波数を一定とし、すべりが -1から2からまで変化する場合の、典型的なすべり---トルク曲線の概形を示せ。すべりの大きさでこの機械の動作状態を分類し、各々の状態における動作、エネルギーの流れに関して説明せよ。
これは講義でかなり力を入れて説明したところですので、講義に出席していた人は、最低限何となく正解に近い分はかけていたようです。すべりが負になったときのトルク特性が正しく書けていない人が目立ちました。
(3) トルクの式に基づき、二次抵抗が変化した場合の、すべり---トルク曲線の比例推移特性について説明せよ。そして、その誘導機の始動方法との関係を論じてみよ。(ヒント: 始動に関しては、かご形と二次巻線形に分けて論じる方が解答しやすいと思われる。)
比例推移特性の物理的理解に基づく説明と、始動時の二次抵抗を積極的に大きくする方法について、巻線形とかご形を分けて説明ところがポイントでした。誘導機の円滑な始動のためにstar-△切替がテキストには説明されていますが。これは一次側から見た機械全体のインピーダンスを始動時に想定的に大きくして始動電流を抑制する手段ですので、二次抵抗変化とは直接関係しないことに注意してください。 (したがって、この部分の回答にstar-△結線切替について述べた解答は積極的に減点対象としました。)
[3] 直流機 4kW 100Vの定格を持つ直流機がある。この電機子抵抗はr=a=0.1 ohmとする。回転数1500rpm一定の速度で外部から回転させたときの他励発電機としての電機子巻線の無負荷端子電圧が、界磁電流の関数として下の図のように計測されている(図はこのHPでは省略)。(以下の(1)(2)では、グラフを描く根拠とした回路図や式も併記せよ。)
(1) この直流機を他励の発電機として用いる。同期モータを駆動源として1500rpmで回転させたとき、 界磁電流と設定した場合における電機子電流と電圧との関係を3本のグラフに示せ。
直流機の定常特性は、基本原理さえ理解していれば、加減乗除(中学1年生の数学)で記述できるものですので、もっとできてほしかったです。特に、エンジアリングセンスの問題として、発電機の出力電圧は界磁電流が一定ならばほぼ一定、負荷電流を取ればとるほど端子電圧が微小に下がるということは計算するまでもなく理解してほしいところですが、負荷電流をとるほど端子電圧が上がるような図を描いた人がいたのは大変残念です。また、式は正しく書けていても、数値のオーダが過大であった(電機子電流数百Aのグラフを書いたりしている)人も大きく減点しました。4kW定格で100Vならば、電流は40A前後としてその周辺で特性計算するという常識を持って欲しいと思います。エンジニアリングは式の形のみならず、数値を大切にすることも重要です。
(2) この直流機を分巻電動機として用いる。電機子巻線をの一定電圧源に接続したとき、界磁電流をと3通りに変化させた場合の回転数とトルクとの関係を3本のグラフとして示せ。
これは前問に比べると、やや複雑ですが、やはり直線のグラフになることくらいは気づいて欲しかったです。
(3) 直巻直流機の速度--トルク特性を考え、上記の分巻電動機と比較し、その特徴について自由に論じよ。
直巻直流機という始動時に大きな電機子/界磁電流を流して始動トルクを自然に大きく取るという車両駆動用の特殊なモータの特性について、よく復習してください。
[4] パワーエレクトロニクスの基礎
(1) パワーエレクトロニクスが車両などの可変速駆動にもたらした影響について知るところを述べよ。
これは、電気技術者の基礎的教養として、講義中にかなり具体的説明を加えましたが、あまり良い理解は得られていないという印象を受けました。今後のパワーエレクトロニクス、応用電気工学、モーションコントロールの講義などでも、技術の歴史的経過を意識的に注意深く学んで欲しいと思います。
(2) 単相交流を全波整流する回路を、ダイオード4つを用いて構成する。その回路図を示し、基本的動作を説明せよ。
単相整流回路は、パワーエレクトロニクスの基本中の基本ですので、回路図、回路の基本動作の説明、直流側・交流側の基本的な電圧、電流波形を相互に関連付けてきちんと書けることは、電気技術者として不可欠な基礎学力だと思います。
(3) (2)のダイオード4つをサイリスタに置きかえると、出力電圧の制御を行うことが可能となる。その動作を説明し、これを例に「点弧角を用いた電圧制御」の原理と問題点を述べよ。
「問題点」については、高調波のことと、交流側から見た力率の悪さの2つに言及してくれることを期待しておりました。 力率と効率の違いが理解できていない人は大きく減点しました。 また、点弧角を点呼角と書いた人も減点しました。 点弧核が90度を越えると、直流側から交流側に電力が流れることになることを問題とした人もいましたが、これはむしろインバータ動作として積極的に用いる機能ですので、問題というよりは、サイリスタ・フル・ブリッジ回路の重要な特長と捉えるべきだと思います。
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